3. 神経細胞のはたらき
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1. 神経細胞が信号を受け取る過程
本章ではある神経細胞が信号を受け取り、信号を別の細胞に伝えるかどうかの判断をし、信号を軸索に沿って伝導し、その信号を軸索終末部において別の細胞に伝達する、という一連の過程を追っていく ある神経細胞から別の神経細胞に信号が伝えられる接合部位
シナプスを構成する要素
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幅は約0.02 μm
シナプスの周囲には、多数のグリア細胞が取り巻いている 1つの神経細胞へのシナプス入力の数はさまざまであるが、数百や数千、多いものでは万の単位に及ぶ数の入力をもつものもある
神経細胞のどの部分に入力するシナプスなのかによって、棘シナプス(樹状突起にできた小さな突起への入力)、幹シナプス(樹状突起の幹部分への入力)、細胞体シナプスというように呼び分けることもある 神経細胞間の信号の受け取り
ある特定の神経伝達物質結合した結果なんらかの生理反応を示すタンパク質のことを受容体といい、その神経伝達物質の種類に対応した受容体がシナプス後膜に埋め込まれている https://gyazo.com/aac6cb0ef3ba2fe95bf112d69794b4ea
イオンチャネルは含まないが細胞内の分子を用いて何らかの生理反応を引き起こすもの
イオンチャネル型受容体には神経伝達物質が結合すると受容体の形状が変化し(受容体の活性化という)、イオンの通り道が受容体内部に開くことにより、ある特定のイオンが細胞膜を横切って移動することになる 受容体が活性化されたときにどのイオンがそのイオンチャネルを通過するかは、受容体の種類によって異なる
例えばナトリウムイオン(Na+)が通るタイプの受容体の場合、Na+がイオンチャネルを通って細胞外から細胞内に流入したとすると、シナプス後膜は脱分極することになる つまり、シナプス前細胞からシナプス後細胞への信号伝達は、シナプス間隙において神経伝達物質という化学的な信号によって担われるが、シナプス後膜の受容体を介してイオンの行き来が生じシナプス後細胞に膜電位変化が生じた時点で、シナプス間隙における化学信号はシナプス後細胞の膜電位変化という電気的信号に変換されたことになる シナプス伝達によって生じたシナプス後膜の脱分極
シナプス伝達によって生じたシナプス後膜の過分極
1つの神経細胞には、複数のシナプス入力があるのが普通
神経細胞への入力の大きさとは、そのすべてのシナプスにおける膜電位変化が総合されたもの
樹状突起や細胞体に存在する全シナプスにおいて、興奮性シナプス入力が多ければ多いほど、その多さに応じて細胞の脱分極は大きくなるが、抑制性シナプス入力が混ざると脱分極がその分だけ減ることになる
いわば、シナプス入力は入力数と極性に応じて連続的に変化するような、アナログ的な入力ということができる
1つの神経細胞に存在する複数の興奮性シナプスにおいて同時に信号入力があれば、結果として生じるEPSPの振幅はそれだけ大きくなることになる現象
1つのシナプス部位においても、興奮性入力が次々と時間的に接近してやってくれば、それだけEPSPの振幅が大きくなる現象
神経細胞に対し十分な大きさの興奮性入力があった場合、この細胞の軸索を通じて興奮が軸索終末部へと伝えられることになる
軸索に沿った興奮伝導が生じるかどうかは、細胞体と軸索との間の部分である軸索小丘(起始円錐)に十分な大きさの脱分極が生じるかどうかにかかっており、この部分での脱分極が不十分であれば、信号はそれ以上伝わらないことになる 2. アナログ的信号からデジタル的信号への変換過程
ある神経細胞への興奮性シナプス入力が抑制性シナプス入力よりも優勢で、その結果、軸索小丘に十分な大きさの脱分極が伝わってきたとする
神経細胞は、ここから軸索に沿って膜電位変化という信号を軸索終末部まで伝えていかねばならない
ここでの問題は、細胞膜は完全な絶縁体ではないということ 脂質二重層でできた細胞膜は完全な絶縁体ではないため少しずつ電流の漏れが生じ、距離が進むにつれ脱分極の大きさは徐々に小さくなり減衰してしまうだろう 軸索終末部から神経伝達物質を放出するためには軸索終末部における脱分極が必要なので、膜電位変化を軸索終末部まで減衰させずに伝える何らかの仕組みが軸索には備わっているはず
軸索小丘から先は、活動電位という形で興奮が伝えられていく 活動電位は、前述のシナプス後電位とはいくつかの点で性質の異なる電位変化
シナプス後電位はアナログ的
時間経過も振幅も入力によって千差万別
シナプス入力に応じた膜電位変化が生じる
活動電位はデジタル的
活動電位の振幅は100 mV分にも達し、かつ時間経過は短時間で、膜電位の上昇と下降に要する時間は約1ミリ秒
膜電位変化の急激さから、活動電位はスパイクとも呼ばれ、また活動電位が生じることを比喩的に発火と呼ぶこともある 活動電位の場合は軸索小丘における脱分極の大きさが、ある閾値を超えるかどうかを境として活動電位発生の有無が決まる
ある閾値を超えるような膜電位変化が生じれば、膜電位の大小に関わらずフルサイズの振幅の活動電位が生じ、一方、軸索小丘に膜電位変化が閾値に達しなければ活動電位は生じない
さらに活動電位はその膜電位変化の振幅を減衰させることなく軸索終末部まで伝えていくことが可能
活動電位の発生を司るメカニズム
いずれも膜の脱分極によって開くタイプのイオンチャネル
1ミリ秒の間に生じる一連の事象
軸索小丘における閾値以上の脱分極によってまずNa+の流入が優勢となる
通り道の開く時間経過が前者のほうが後者よりも早い
これにより膜電位の急激な上昇が生じる
すぐそのあとにK+の流出が起きる
膜電位依存性Na+チャネルが活性化→そのチャネルを介したNa+流入によってその付近の脱分極がさらに大きくなる→膜電位依存性をもつそのチャネルがさらに開く→さらにNa+を細胞内に流入させ…が一瞬のうちに生じる この機構があるため、ひとたび軸索小丘の膜電位が閾値を超えさえすればフルサイズの振幅の活動電位が生じる
ただし、膜電位依存性Na+チャネルの性質として、開いたのちすぐ自分で自分の通り道を塞いでしまい(不活性化)、以後その不活性化状態がリセットされ次に活性化されうる状態に戻るまでに数ミリ秒を要する したがって、ある地点で活動電位が1回発生すると、次に活動電位がその場所で発生できるようになるまでに若干の時間が必要だということ
活動電位がいったん生じた後、再度フルサイズの膜電位変化で活動電位が生じうる状態に戻るまでの期間
どんなに大きな脱分極がそこに到達したとしても次の活動電位が発生し得ないような不応期(不応期の比較的早い時期)
通常の閾値よりも大きめの脱分極が来た場合に限り活動電位が発生しうる不応期(不応期の比較的遅い時期)
つまり、ある活動電位の次に再び活動電位がどのタイミングで発生するのかは、そのときの脱分極の大きさに依存して決まることになる
すなわち、そのときの脱分極が大きいほど、相対不応期の早い時期に2発目の活動電位が生じうる
以上のことからわかるように、ある閾値を超えた脱分極が生じそこに膜電位性Na+チャネルが存在すれば振幅がフルサイズの活動電位が生じることになる
軸索小丘以降の軸索に沿ってこのイオンチャネルが軸索終末部に至るまで細胞膜に存在していれば、あたかもドミノ倒しのように次から次へとフルサイズの振幅の活動電位が軸索に沿って発生していくことになり、その振幅は減衰することがない
ちなみに、振幅はほぼ一定である活動電位で、もともとのシナプス入力の大きさはその発生頻度に反映されている
活動電位の発生頻度(単位時間あたりに活動電位が何回発生するか)が高ければ、軸索終末部における伝達物質放出も多くなる
したがって、全か無かの法則についてデジタル的という形容がよくなされるが、EPSPの振幅が軸索小丘において活動電位の頻度という情報に変換される形で保存することを考慮すれば、活動電位も軸索小丘の脱分極の大きさに応じてある程度連続的に変化する信号であると考えることもできよう
3. 神経細胞が活動電位を軸索に沿って伝える過程
軸索の細胞膜には軸索小丘と同様に膜電位依存性Na+チャネルおよび膜電位依存性K+チャネルが存在しているため、軸索上を細胞体から軸索終末部の方向へ活動電位が減衰せずに伝えられていく
1つの細胞の中で信号が伝わっていくことを、信号の伝導という 軸索の周りをグリア細胞が鞘状に取り巻いて髄鞘を形成している場合とそうでない場合とがある 髄鞘を持たない軸索
活動電位の伝導速度は毎秒1m程度
髄鞘を持つ軸索
活動電位の伝導速度は毎秒数十mから100mに達する
髄鞘が一種の絶縁体として働き、髄鞘に囲まれている区間は電流の漏れが少ないため、その区間は膜電位依存性Na+チャネルによる活動電位の発生が不要だから 実際、髄鞘に覆われている部分の軸索にはこれらのイオンチャネルは存在していない
髄鞘と髄鞘の間で、軸索がむき出しになっている部分
膜電位依存性Na+チャネルが細胞膜に存在しており、この部分でフルサイズの振幅の活動電位を改めて生じさせた後、それに続く髄鞘の部分を電流がすばやく次のランビエの絞輪に向かって流れることになる
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飛び飛びに存在するランビエの絞輪の部分で活動電位を発生させ効率よく伝導していくやり方 人間の場合、大脳の部位によっては生後も徐々に軸索の髄鞘化を進めている部分があり、特に前頭前野は生後20年かけて髄鞘化されることが知られている このことは人間が成長するにつれて伝導速度が速くなっていく脳領域があることを示している
4. 神経細胞が信号を別の神経細胞に伝達する過程
活動電位が軸索終末部に到達すると、神経伝達物質の放出過程が始まる
軸索終末部において電気信号から化学信号への変換が行われる
軸索終末部にはCa2+が結合することによってはたらきを開始する分子が種々存在しているので、このCa2+流入が引き金となって、神経伝達物質放出に向けて軸索終末部内の一連の化学的反応が開始する
軸索終末部においてCa2+は大別して2つの仕事をすると考えられる
シナプス前膜に付着したシナプス小胞とシナプス前膜とを融合させて穴をあけることにより、シナプス小胞内の神経伝達物質をシナプス間隙に拡散させる(放出させる)役割
軸索終末部に到達する活動電位の頻度が高いほど膜電位依存性Ca2+チャネルを通って流入するCa2+の総量が多くなり、Ca2+流入量の増加に伴って神経伝達物質の放出量も増えることになる
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シナプス小胞がシナプス前膜に融合し開口して伝達物質が放出されるまでの一連の過程
神経伝達物質が放出されれば、シナプスにおける相手役の細胞(シナプス後細胞)のシナプス後膜上にある受容体に作用して信号が伝えられることになる
シナプスとして機能するためには放出された神経伝達物質をすみやかにシナプス間隙から除去する機構がなくてはならない
神経伝達物質がいつまでもシナプス間隙に存在していたのでは、その次に来る信号の意味を弱めてしまうことになり不都合
除去のための方法
神経伝達物質を化学的に変化させ、受容体に結合しないような別の物質に変換してしまうこと
細胞膜に埋め込まれたタンパク質の一種であるトランスポーターの働きにより、シナプス間隙の神経伝達物質を周囲の細胞に取り込むという方法 5. ホルモンによる信号
人間や動物の身体には、このような神経系の信号のほかに、内分泌系の信号による伝令メカニズムも存在する 身体の随所にある内分泌腺から分泌される化学物質が血流によって身体中を駆け巡り、この化学物質の作用を受けうる標的に出会って結合したときに機能するというもの このようような働き方をする化学物質のことをホルモンとう 神経伝達物質とホルモンの違い
神経伝達物質は、放出時点で標的が明確かつ即座に作用する
シナプス間隙に拡散するだけ
ホルモンは血流を介しての作用となるので放出時点では標的が明確でなく、かつ作用するまでに時間がかかる
しかし、ホルモンの方がより長期的・全身的な作用が可能であるということもできる